消しゴムはんこの作り方_基本編_第3回『彫り方から梱包まで』
いよいよ彫っていこう!!
作業台をセッティングしよう
今までの講座でも類似した場面がありましたが、最初にすることは『環境の準備』です。ライトスタンド2台とA3の厚紙を作業台に準備しましょう。ライトスタンドの明かりは奥側両サイドから消しゴムに当たるように調整します。
ライトスタンドがA3の厚紙を踏まないように注意してください。画像よりもっと手前に置いてもいいでしょう。影が完全に消えるわけではないのですが、作業中に微調整する必要がほとんどなくなります。
光の角度を調整しながら作業するならライトスタンドは1台でも十分ですが、2台の方が影の量が少なくなるので、画像や動画を撮りたい人は2台がオススメです。
このセッティングがもう一つ利点があります。
作業中にある程度消彫り屑が溜まったら、消しゴムを厚紙の上からどけて・・・厚紙ごと彫り屑を持ち上げて、そのまま彫り屑を捨てることができます。溜まった彫り屑が作業の邪魔になることもあるので、こまめに捨てましょう。
彫り方の基本は押印面の断面が台形になるように
参考用に準備した消しゴムを矢印の方向から見てみましょう。記号の中は断面がわかり易いようにデザインナイフのみでカットしてます。
すると中の線はデザインナイフでV型にカットされていることがわかります。これが基本的な線の彫り方です。
しかし、消しゴムに使用される線は間の距離が一定ではありません。凸面から凸面までの距離がある場合は当然、V型には切りません。凸面の間は均してありますが、両サイドの凸面の壁は外側に向かって傾きます。
つまり、押印面の断面は台形になることが分かります。
台形に切る理由は押印面に強度を持たせるためです。この形が垂直や逆台形だと弱い押印面になってしまうのです。細い線や密集した線を彫るときにはかなり急な傾きになりますが、それでも台形に作るのが基本です。
細い線が難しく感じてくるかもしれませんが、人の手はデザインナイフを垂直に立てたつもりでも僅かに利き手側に傾くクセがあります。このクセを利用して細い線や密集した線は彫っていくことになるのです。
無理のない方向に彫ることを意識しよう
基本的なカットの仕方を動画やブログで覚えても、線が歪む・切れる・ガタつく・・・曲線が上手く彫れないなどの悩みを持つ初心者は多いと思います。
これに関しては押印面の断面形状だけを教えただけで、基本的な彫り方を教えたつもりになっているサイトや動画が多いのも原因です。
『とりあえず彫れるようになる』だけならそれでもいいのですが、クオリティを上げたいなら原因と解決策も必要です。個人差はあっても、原因と対策が分かると分からないでは大きな開きがでます。
ここでは個人的な見解ではありますが、『共通の原因』について説明します。それは、人間の動きとして無理のある方向から作業しているからです。
※この先は個人差があることも理解したうえで、お進みください。
ほとんどの人は縦方向に彫ることは得意でも、横方向は苦手という方が多いと思います。さらにデザインナイフは利き手側に傾きやすいことも意識しなければなりません。
苦手な方向の線がガタついたりするのは当然です。よって間接的に無理のない方向に彫るためには、消しゴムの向きを変えながら作業することになります。
現実問題、まっすぐな線は多くはありませんが・・・できるだけ直線に近い線を得意方向に向けながら作業してください。
彫刻刀に関しては、ここまで神経質になる必要はありません。先に彫ったデザインナイフの跡が停止線や安全圏の役割をしてくれるので、ある程度は自由な方向に彫ることができます。
ただし、仕上げのサラエに関してはデザインナイフと同じで得意方向に使用します。無理な仕上げをして完成間近の作品を壊さないようにしてください。
また、得意方向も道具によって『押し』と『引き』のどちらが得意か別れます。
私の場合はデザインナイフは『押し』。サラエは『引き』になります。道具による得意方向の違いにも注目しましょう。
しかし、これではまだ曲線についてのコツが説明できていません。基本的には直線と同じなのですが、デザインナイフではなく消しゴム側を動して彫ります。カレンの消しゴムはんこを例に説明しましょう。
今から直線→曲線→直線で構成された部分を彫ろうとしています。
直線を彫り進み、曲線の前でデザインナイフを止めてください。このとき、デザインナイフを抜いてはいけません。滅多に起きることではないのですが、刺し直しをすると切断面が段差になってしまうことがあるのです。
ここではデザインナイフを固定したまま、消しゴムをゆっくりと回して曲線を彫ってください。
曲線部分の終わりまできたらまた動作をストップ。今度はまた直線になるので、得意方向にデザインナイフを動かして彫ります。
キャラクターのイラストを消しゴムはんこにする場合、ほぼ確実にこの動作が必要になります。原画に選んだキャラクターのデザイン(特にスタイルの良い女性キャラクター)によっては多用することになります。
消しゴムを回りながら曲線を切るのが苦手な場合、少しずつ回転させて細かい直線を刻むように進む方法もあります。ガタつきが少し残るかもしれませんが、慣れないうちはこのような方法でもいいでしょう。
彫る順番も考えよう
小さなマスコットやシンプルなデザインのキャラクターの場合は、順番を意識しなくてもできてしまいますが・・・サイズの大きなイラストの場合は、消しゴムに転写した線に手が触れることがあります。
手が触れた線は分かりにくくなったり、最悪やり直しにもなるので転写の線を消さないように作業する必要がでてきます。
手が触れる心配が少ない作品を取り扱う動画やサイトでは、このことについて説明していないことがありますが・・・最終目的をキャラクターイラストとしている人にとっては、伸び悩む要因になります。
作り手によって異なるとは思いますが、ここでは私の彫っている順番で説明します。
基本的に下側から彫っていきます。
画像でマーキングしたエリア内でも優先順位があり、右から左に向けて作業していきます。これは右利きにとって、消しゴムを正位置に置いた場合と反時計回りに回転させた場合の安全圏を考えた順番です。
一定のエリアを右から左へと彫る作業を上の方向に向けて繰り返します。
もちろん、無理なく彫れる方向も考えて作業することになります。消しゴムが正位置にあれば、どんどん右下から上に向けて安全圏が広がります。
反時計周りに回すと、右側から左に向けて安全圏が広がる順番なのです。
消しゴムの作業が終わったエリア以外にも、作業台の上は安全圏になるので無理なく得意方向に届きそうな位置から作業することになります。最初は手の位置取りが難しい線もありますが、作業が進むにつれて安全圏は広がっていきます。
私の場合は『髪は後回しにして最後に彫る』『最初にキャラクターの外周をある程度彫って背景との境界線をはっきりさせる』の例外がありますが、基本的にはこの流れで彫ってきます。
ちなみに例外パターンを真似する場合は線の上に手がくることになるので、触れて消さないように注意してください。
必ずしもこの方法が正解とは限らないので、独自の順番・法則をみつけてみるのもいいでしょう。
彫った場所を仕上げよう
彫っただけの面は荒いので、消しゴム表面より下がっているように見えても押印時に写ってしまうことがあります。目立ちやすい場所はキャラクターの衣装・体型・構図によっても変わります。
ミヤマとカレンの消しゴムはんこを例にあげると、マーキングした場所に彫り残しによる不要な押印が発生し易くなります。
特に面積の広い面に注意が必要になります。これは押印したときにかかる力で歪んだ面が押印する対象に接触するからです。
彫り終えた場所の仕上げをする前に、不要な余白はカットしましょう。あえて残すこともありますが、私は仕上げ面積を減らすためにカットすることが多いです。
あとはサラエを使って、余白と彫りこ残しが出やすい場所を均します。サラエがない場合は平刀で代用してください。無理に狭い場所まで仕上げようとすると、仕上げ前の破損の悲劇が起きるかもしれません。
サラエは売っていないホームセンターもあるので、ネット購入になるでしょう・・・そのうち欲しくなるかもしれませんね。クセのある動きですが、慣れればサラエのほうが楽になってきます。
あとは押印テストをして気になった彫りこ残しを確認・修正する作業を繰り返して、不要な押印が発生なれば完成です。記念の一枚を押印しておきましょう。
押印前にやっておくこと
順番が前後しましたが、押印前にやっておくことがあります。それは消しゴムから手油を拭くことと、彫り屑を取り除くことです。
作業中に着いた手油をそのままにしておくとインクのつきが悪いので、キッチンペーパー等で拭き取っておきましょう。
彫り屑の除去については他のサイトや動画で練り消しを使った方法を知っている人が多いでしょう。定番の方法ですが、ハガキサイズの前面に練る消しを当てるのは面倒です。
練る消しは長期間使用しないと乾いてボロボロになることもあるので、使用頻度の低い人には向きません。ここでは、練る消しを使わないちょっと大胆な方法を紹介します。
キッチンペーパーの上に押印面を下にして置いたら、軽く叩いて大まかに屑を落としてください。
この後は適当な紙に2、3回ほど捨て押印してください。彫り残しの押印テストと一緒にしてもいいでしょう。このように捨て押印で彫り屑をとる方法もあります。
動画の捕捉をしますが、捨て押印と押印テストはインクを綺麗につける必要はありません。多少ムラがあっても確認できるインク量なら問題ないです。
インクの塗り方
本場押印の場合は、ムラなくインクを塗りましょう。本当は大判サイズで全面に対して一度につけるのがいいのですが、色によっては大判サイズがないでしょう。また、出回っている数も多くはないです。
なので通常はスタンプ台(インク)の方を持って、消しゴムはんこ表面全体に軽く叩くように塗っていきます。この方法で覚えておけば、大判サイズにこだわらずに好みの色をつけることが出来ます。
インクの塗り忘れやムラがないか、光に当てて確認しましょう。
ハガキサイズの押印のコツ
ハガキサイズにもなると押印時の圧力が不安定で、押印にムラが出やすくなります。彫り方によっては彫りこ残し部分(着色箇所)に気泡が入り、泡立ったような跡になることもあるのです。
確実な方法は変形しない程度の厚みの板を消しゴムはんこの裏に貼りつける方法ですが、コスト面の問題があります。(押し方によっては気泡も残ります。)
辞書などを載せてじっくりと力をかけていく方法もありますが、今回は私が使っているエア抜き押印を紹介しましょう。まずは曲がらない程度の厚みの板を用意してください。幅はハガキサイズの横幅より小さめを選んでください。
ハガキ(押印したい対象)にインクを塗った消しゴムはんこを置いたら、用意した板で消しゴムの左側→右側→上側→下側と、消しゴムはんこが変形しない程度の力で押します。これを5回程繰り返してください。
※板が極端に消しゴムはんこから飛び出さないように。カット後のサイズによっては、ズラさなくても押せることがあります。
板と消しゴムはんこをどけると、ムラと気泡跡のない絵が押印されます。この方法でもムラと気泡が気になる場合は、土台が柔いか平面ではない可能性があります。硬く安定した床や木の板の上を土台にするのがオススメです。
面倒な方法と思う人もいるでしょうが、板が使い回せるコスト面の優秀さはあります。
押印後の消しゴムはんこのインクは、キッチンペーパーで軽くふき取って乾かす程度でいいでしょう。スタンプクリーナーをオススメしているサイトと動画もありますが、微量なダメージがあるので個人的にはオススメしません。
よほど綺麗にインクを落としたい場合以外は、ふき取って乾かせば十分だと思います。
大切な完成品を保管しよう。
出来上がった消しゴムはんこは大切にしまいましょう。たいしたことをするわけではないのですが、習字用紙とセロテープを用意してください。
習字用紙に消しゴムはんこを包んで、セロテープでとめるだけです。
このときに印刷した原画を切り取って一緒に入れておくと、管理が楽に。
梱包した消しゴムはんこの保管場所を探しましょう。消しゴムはんこの弱点は文房具の消しゴムを同じと考えていいですが、紫外線のあたるところ・・・直射日光のあたるところは確実に避けて保管してください。
出来れば高温にならない場所が理想ですね。私はクローゼットの中にスペースを作って保管しています。
本来は『収納する』などとという言い方が正しいのでしょうが、絵師の方々よりイラスト借りて作ったという言う意味で、ここではあえて『保管』と表記します。
今回の講義を終えて
他のサイトを見て説明不足の多かった点や、個人的な見解内容を多く追加した内容になりました。シンプルな内容でざっくりした記事でも良かったのかもしれませんが、『とりあえず作れる』以上の内容にしたかったのです。
得意方向の問題は、ほとんどの人が行き詰ったときの共通の問題なので、私なりに考えた対策を記載しました。もちろんこれが絶対的な答えではないでしょうが、まずはこれを参考にしてみてはどうでしょうか?
消しゴムはんこにも種類があるように、作り方も行きつく先は人それぞれです。いずれは自分にあった別の方法に切り替える日がくるかもしれません。それまでは私の記事・動画を基礎習得及び上達するためのツールとして利用して頂きたいです。
講義動画はこちら
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